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世界一可愛い!と思える子どもでも、そう思えなかった時の感情・・。「心のコップ」を満たすケアやサポートも積極的に。【わたなべ麻衣 x 高祖常子】子育て対談

令和3年度中に全国225か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は207,659件(速報値)で、過去最多と年々増加の一途を辿り、社会的な課題となっています。自身、子育てに悩んだ経験からこの社会課題を解決していく機運を創出するためにモデル、タレント、女優として活躍するわたなべ麻衣さんと、子育てアドバイザー、キャリアコンサルタントの高祖常子さんが対談しました。

この「イライラ」は、どうして?
今の自分の状態を“知る”ことの大切さ。

◯わたなべ麻衣さん(以下敬称略):
子どもを産む前は、虐待などの悲しいニュースを見ると、なぜそんなことができるの?と信じられないという感覚でした。それが子どもを産んでからは、そういうニュースを見たとき、それくらい追い詰められていたのかと、以前とは全く違う見方をするようになったんですね。だからといって、その親たちの味方になってあげたいというわけではありません。虐待はいけないことだし、そこまで制御できなかったことも良くないことですが、わからなくはないという気持ちが生まれました。それが自分にとってすごい変化で、そういう感情があることもショックでした。

●高祖常子さん(以下敬称略):
わかります。子どもが産まれる前は、道端でお子さんに声を荒らげている人を見ると、そんなに怒鳴り散らさず優しく言ってあげれば…と思っていたのに、いざ自分の子どもが泣き止まなかったり、勝手なことをしていると声を荒らげている自分に驚いて、ああ私も…と残念な気持ちになることもありますよね。

◯わたなべ麻衣:自分はそんなことはしないと考えていましたし、ましてやそういう人たちには、もっと優しくしてあげればいいのに…と思っていたのに、それが、ただご飯を食べないだけで「なんでご飯食べないの!」って。怒っている内容は小さなことですが、それが積み重なっていくとメンタルやホルモンのバランスなどもあって、「今日は対応できなさそう…」っていうときがあります。

●高祖常子:そうですよね。でも、メンタルやホルモンのバランスだとわかっていらっしゃるところ、分析していることが麻衣さんは本当にすごいです。

◯わたなべ麻衣:そこは自分でも調べてみました。自分にそんな感情があったことが、ちょっとショックでしたから…。私、変わっちゃったのかな、こんなに冷たい人間だったのかなって気持ちになったので、自分以外にもそんな気持ちを持った人たちがいるのかなと検索したことがあったんですね。その中で、そういうホルモンバランスなどがあるのだと知りました。
出産してすぐの頃、産後鬱っぽい時期があったんです。でも産む前からそういったことを調べていたおかげで、今はきっと産後鬱っぽいメンタルになっているから何をやっても悲しいのだろうなと思えたこともあり、そこまでひどくはならなかったかもしれません。

「心のコップ」を満たすケアやサポートも積極的に。

◯わたなべ麻衣:一番大変だったのは新生児から半年ぐらいです。感情が高まって、「もう見たくない!」といった気持ちになったこともありました。夜になると、「母親にならなかったらもっと穏やかな生活ができていたのに」とか、そういう気持ちも生まれました。今思うと考えられないですね。子どもが泣いていても、「なんで泣いてるの?わかんない!」って感じで無視しちゃったり、泣いているってことに対して毎回は抱きしめてあげられませんでした。泣き止んだと思ったら、またすぐに泣き出して夜も眠れず、普通の生活をしていたら対応できることも、いっぱい一杯で対応できないということがありました。

●高祖常子:私は「心のコップを考えてみて」と伝えています。心の満たされ度です。子どものことで眠れなかったり、ご飯を食べようと思ったら泣きだしてゆっくり食べる暇もない。心の中のコップが満たされていなかったり、からからに乾いてしまっていると、気力が起きなかったり、すぐにイライラしてしまう。安心して寝られること、安心してご飯が食べられること。泣きたい気持ちやできない、やりたくない気持ちもひっくるめてパートナーや家族、周囲の人に受け止めてもらえること。そういう人間の一番基本的な、生きるために必要なところが守られ、安心・安全に満たされていくと、思いもよらない子どもの言動や、「いや」という気持ちを受け止められるようになると思います。

◯わたなべ麻衣:「心のコップ」本当に大事だと思います。そこを周りのサポートというか、どれだれケアしてもらえるかで、その心のコップの満たされ方も違うのかなと思います。世の中的に私は、旦那さんにも育児をしてもらえているほうだと思っています。でも、そんな私でも睡眠がとれない、ご飯が食べられないでイライラするときがあります。子育ては産んでからがスタートではなく、前々から知識を知って旦那さんとの関係性も深めていないと、いざ生まれてバタバタとやっても難しいんだろうなと思います。子育ても大事ですけれど、その関係性を築き上げることも並行して大変でした。

●高祖常子:子育ても家事もパートナーと協力して乗り越えていくことは大切ですよね。そして自分だけ、夫婦だけで抱え込まないことが大事です。お祖父さん、お祖母さんといったご家族に頼るとか、行政の子育て支援サービスを利用するという手もあります。ファミリーサポートや一時預かり、ベビーシッターなどを利用して、とりあえず睡眠を確保するということも大切だと思います。

◯わたなべ麻衣:そういったサポートも、ちゃんと利用しなくてはいけませんね。利用しているのはサボっているんじゃないんだよって、大きな声で言いたいです。私は0歳児から子どもを保育園に預けて仕事をしているんですね。そのことで、「0歳児から預けているなんて可哀想」と言われたこともありました。でも、可哀想っていうのは大人の意見だと思うんです。ある先輩ママに、「その子にとっての幸せは、その子にしかわからない」と言われたとき、確かにそうだなと思いました。親が一緒にいるほうが幸せと思い保育園に預けず育休をとって育児をしていた方なのですが、保育園の園児がカートに乗って楽しそうに散歩しているのを見たお子さんに、自分も乗りたいと言われてそう感じたそうです。言葉が通じないから大人の価値観で考えてしまいがちですが、家の中でお父さん、お母さんといるのももちろん幸せ。でも、保育園での友達との出会いや新しい視野、世界が広がる幸せもあるんじゃないかって。私の場合、しんどい時期に波があって、ずっと一緒にいると全力では愛せなくなったときがあったんです。保育園に預けて、外で仕事をすることが息抜きになりました。そして保育園に迎えに行っときには、「おかえりー!会いたかったよ!」って、嬉しくなってめちゃくちゃスキンシップするんです。そうしたテンションで接する時間ができることのほうが自分にとってもいいと思えるようになりました。いっぱい一杯になっている時は、保育園やベビーシッターなど人の手を借りることも大切だと感じています。

●高祖常子:特に乳幼児期は、一日中親子で過ごすという家庭も少なくないでしょう。どんなにかわいいと思っても、日中ずっと親子だけで過ごすと息が詰まると感じることもあります。眉間にしわを寄せてイライラしながら親子で部屋にいるより、いろんな人の手を借りるようにするといいですね。
専業主婦の方の中には預けることに罪悪感を感じる方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。専業主婦のほうが働いている方よりストレスが大きいというデータもありますし、自分のためにも、子どものためにも利用できるものは利用してほしいです。
麻衣さんがおっしゃったように保育園は、いろんな友達にも会えるのが魅力です。理由問わず使える一時預かりは、専業主婦(夫)の方もぜひ利用していただけたらと思います。保育士さんなど大人との人間関係もできます。遊びやコミュニケーションを通して成長していくことで、子どもの社会性や相手を思う心を育むという面もあります。子育て支援サービスはぜひ、積極的に活用いただけたらと思います。

◯わたなべ麻衣:子どもを保育園に通わせるようになって、カッとなる気持ちがなくなりました。気持ちに余裕が持てるようになりました。子どもの成長を見守れる、小さな変化に気づけるというのは、心にゆとりがあるからできることですよね。「これができるようになったね」とか、お手伝いや行動について褒めることもできるようになりました。子どもが、世界一大切!超可愛い!と毎日変化や成長が見ることが出来て子育てが本当に楽しいです。

●高祖常子:そうですね、心に余裕がないと「他の子はこれができるのに」とか、細かいマイナスなことばかりに目がいっちゃうんですよね。心が穏やかだと良い所に目が届くようになっていく。それが子どもの成長発達にもすごく良いことなんです。

情報を知るのに、ネットは便利な存在。
でも、頼りすぎないことも大切。

◯わたなべ麻衣:「これやってね!」って私が娘に言った時に「嫌だよぉー!」って娘が言ったり、苦手な食べ物を食べられるよう健康のために一生懸命ご飯を作ったのに、くちゃくちゃにしたり、食べても吐き出したりする時、どうしてもイライラしてしまう瞬間はあります。そんなイライラしたときは子どもにあたらず、一度調べるということも心掛けていました。子どもには成長発達の段階があることを学んだり、生まれたばかりなんだから、私たちが当たり前と思っていることも当たり前ではないし、できないということも前提で考えなくてはいけないなと思います。それでもイライラすることはあります。だからネットなどで調べて、「この時期はこうなんだ、今はこういう発達状態だから見たことのない食べ物は受け付けないんだな」とか、そういった知識は自ら得るようにしました。調べていると同じ悩みを持つ人が大勢いるということもわかります。それだけでも「私だけじゃないんだ、ウチの子だけじゃないんだ」と安心できるし、怒りも半減する。みんなも苦労しているなと思えば耐えられるところも出てきます。それはネットの環境がある今だからできることで、この時代に生まれて良かったなぁと思います。

●高祖常子:調べることで納得して、落ち着けるようになるってことですね。でも、逆にそれで心配になってくるということはありませんでしたか。

◯わたなべ麻衣:はい。早い段階からネットに頼りすぎないようにはしました。ネットは、何でもかんでも出てくるので、最初はいろいろと調べていました。でも説明がサイトによって異なるし、見すぎるといろんな情報が入りすぎて、それで逆に不安が増すという悪循環も感じるようになりました。例えば体重やミルクを飲む量とか、その数字にならなきゃいけないといった“数字”で考えがちになってしまったこともあります。
でも、人間はロボットじゃないのだから、みんなが同じになることなどないですよね。そのことに気づいて、これはいけないな、と少しずつネットから離れるようにもなりました。
「こんなときはどうしたらいいだろう」と、私の中に選択肢がないときだけネットに頼るようにしました。

●高祖常子:ネットに書いてあったから…じゃなく、いろいろ調べた中で選ぶということですね。そこがとても大事ですね。ネットで調べていくと、ネガティブな情報に引っ張られがちになり、「認知のゆがみ」とも言われますが、さらにその考え方を裏付けるような情報を集めてしまいがちになります。

◯わたなべ麻衣:そうです。でも結局は自分に余裕がないと、いろいろな情報の中から選択するのも難しいですよね。そう思うと、すべてに心の余裕の大切さがつながってくると思います。

疲れたら、ちょっと距離をとってみる。
自分なりにクールダウンできる方法を考えて。

◯わたなべ麻衣:子育ては大前提として大変なこと。そこを楽しくしないと変わらないですね。自分が楽しいって思えるには、子どもとの距離をほどほどに保つことも必要だと思います。今、子どもが目の前にいることがストレスと気づいたら、周りのサポートも利用してちょっと距離をとってみる。すると自分の状態を客観的に見られるようになります。楽しいって思えたときも、その瞬間が、なぜ楽しいって思えたのかを分析することが大切だと思います。そこから、楽しくするためにはどうすればいいかということも考えられるようになるのではと思います。

●高祖常子:そうですね。客観的に見られない状態が続いていくと、「なんでこんなことを…」という思いで自身も疲れてしまいます。イライラしているときは自分がいっぱいいっぱいの状態です。
怒りは第二次感情と言われています。そんな時は怒りの一歩手前の理由を考えてみましょう。自分はなぜこんなにもイライラしているかと客観的に考えてみることが大事です。子どもの成長・発達が心配なのか、パートナーが協力しないことにイライラしているのかなど。そして成長・発達が心配なら保健師さんや保育士など専門職に相談してみたり、パートナーへの不満なら家事・育児のシェアを相談してみる。怒りをぶつけられる子どももつらいですが、毎回怒ってしまう自分も疲れ切ってしまいます。可能なことを手当し、改善してみることが大事です。急にはうまくいかないかもしれませんが、どうしたら不安やイライラを解消できるかを問題解決型で考えて、対処してみていただけたらと思います。

◯わたなべ麻衣:それでも手を出しそうになるなら、そうならない環境をつくることが大切だと思います。イライラしたら、一旦、自分が隣の部屋へ行くとか…。パートナーのどちらかが手を出しそうなときは、もう一方が止めるとか。クールダウンする方法を考えてほしいです。そうすることで怒ってしまう回数も減っていくのではないでしょうか。

●高祖常子:そうですね。あとは、ついカッとしたときに、気持ちを納める方法をもっているといいですね。たとえば、深呼吸するとか、ゆっくり数を数えるとか、自分は「○○をしてみよう」と心がけておくといいと思います。手を挙げそうなときは、麻衣さんがおっしゃったように、少し子どもから離れるというのも一つの手段だと思います。

周りに誰もいないと思わないで。
地域や行政のサポートを積極的に利用してほしい。

◯わたなべ麻衣:児童虐待のニュースを見ていると、周りに誰も頼れる人がいなかったのかな…というパターンが多い気がします。人数が多くなくても、誰か本当に頼れる人が一人いるかいないかで、そのお母さんの人生も子どもの人生も変わるんだろうなって…。子どもが生まれて保育園に預けるまでの半年間は、私は“お母さん”でしかなかったと思います。ずっと一緒に過ごしていて自分の時間も、睡眠時間もないような状態でしたので、そうしたサポートがある環境でどれだけ救われたかと思います。

●高祖常子:その大変だった半年間の時期に、地域の「子育てひろば」などには行かれなかったのですか?

◯わたなべ麻衣:その頃は行く余裕がなかったんです。チラシをいただいて様々な支援や講座があることを知ってはいたのですが、外に出る気力がなかった…という感じです。一度行けば、その後の子どもへの接し方も変わっていたと思います。今思うと、踏み出す一歩として行っておけば良かった…とも思いますね。

●高祖常子:育児に悩んだら、ぜひ地域の自治体の相談窓口を利用して欲しいです。
どこに相談するかわからないときは、国の無料の電話番号(児童相談所相談専用ダイヤル:0120-189-783いちはやく おなやみを)があるので、そこにかけてください。最寄りの窓口につながり、子育ての悩みを相談できます。それからもしも児童虐待かも…と思うことがあったたら(児童相談所虐待対応ダイヤル:189 いちはやく)という、電話の相談窓口もあります。
それと来年になるのですが、「親子のための相談LINE」で相談できるサポートを国でつくると聞いています。すごく落ち込んでいるときって自分で動くのも、電話するのも大変ですよね。そういうときにスマホで気軽に相談できる仕組みです。子育てに悩んだ時に頼れる存在にきっとなると思います。

◯わたなべ麻衣:そのようなサポートができるのは、本当にありがたいです。今はSNSなどに慣れすぎて対面で話すことや、自分の悩みを直接言うことが苦手な方も多いと思うんです。そういう方には、顔が見えない状態のほうが相手の言葉を聞けるし、心が楽になるということがあるかも知れませんね。

●高祖常子:直接相談に行く、電話する、LINEで相談する…。そのときの状況で「これだったらできそう」という手段を選べるというのは大きいと思います。子育てに悩んだり、迷ったり、イライラすると感じたら、一人で悩まず、積極的に利用してもらいたいですね。

わたなべ麻衣(わたなべまい)

わたなべ麻衣(わたなべまい)

「20代のなりたい顔ナンバーワンモデル」といわれ、インスタグラム(Instagram)のフォロワーは50万人を突破。現在、「VOCE」「ar」「美的」等 多数の女性誌でモデルとして活動。また、「ZIP!」(日テレ)では、リポーターを務める。「anan」フェムケアfile、「共働きwith 」では、30代のリアル美容を好評連載中。 夫はタレントのJOY。1児の母。

高祖 常子(こうそ ときこ)

高祖 常子(こうそ ときこ)

認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事。
子育てアドバイザー、キャリアコンサルタント。資格は保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級ほか。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。リクルートで学校・企業情報誌の編集にたずさわったのち、2005年に育児情報誌miku編集長に就任し14年間活躍。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事ほか各NPOの理事を務める。「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(厚生労働省2019年度)ガイドライン策定委員ほか、国や行政の委員を歴任。令和4年度子どもの虐待防止推進等普及啓発事業外部アドバイザー。3児の母。