社会福祉学博士、社会福祉士、介護福祉士。地域福祉を大きな研究テーマに掲げ、若年認知症者の生活支援、ソーシャルサポートネットワークづくり、ヤングケアラー、ケアラーのピアサポートに関する研究活動、また、文京学院大学、立教大学の教員として、社会福祉士の養成等にも取り組んできた。現在は、大学で非常勤講師をしながら、一般社団法人ケアラーワークス代表理事・府中市ヤングケアラーコーディネーターのほか、一般社団法人日本ケアラー連盟理事、NPO法人日本地域福祉研究所理事など他機関の要職も務める。令和6年度東京都ヤングケアラー支援推進協議会の委員を務める。

2024年度の
プロジェクトについて

今年度は、全国9か所の中学校・高校を訪れ、出前講座を実施しました。
出前講座では、ヤングケアラーを正しく理解するための動画「ヤングケアラーって、実は結構身近なのかも」の視聴や、元ヤングケアラーの方のケア経験のお話、元ヤングケアラーの方と代表生徒が直接対話するクロストークを展開。
また、一部の学校では、代表生徒にヤングケアラー役を演じてもらい、ヤングケアラーの1日を表した寸劇も交え、ヤングケアラーを身近なこととして考えてもらうきっかけになるようなプログラムを構成しました。
より効果的な出前講座を
実施するためのポイント
- 開催校と、講座に対する学校の期待や、生徒に伝えたいメッセージを事前に共有
- 配慮が必要なこどもの状況を踏まえ、講演内容を検討(支援メニューや相談窓口の紹介など)
- 生徒たちの日常の様子を事前に把握し、講座の進行方法や雰囲気について関係者間で十分に共有
出前講座では、ヤングケアラーについて
正しく理解するための動画も活用しました。「ヤングケアラーって、実は結構身近なのかも」
2024年12月〜2025年2月に実施した全9回の実施概要と講座の様子をご紹介します。
島根県出雲市立第三中学校
- 実施日程
- 2024年11月7日(木)
- 参加生徒数
- 769名(全校生徒)
- 司会
- 森山 悟子
- 登壇者
- 高橋 唯
- 事業協力
- 山陰中央新報社
参加生徒の感想

ヤングケアラーは誰もがなりうるもので、決して他人事ではないことがわかりました。また、実際に経験された高橋さんは「当時も普通に学生生活を送っていた」と話されていたことに驚きましたが、ヤングケアラーにも家庭の事情によって様々な形があるということを学びました。

自分自身が、ヤングケアラーとされる状況に直面する日が来るかもしれないし、まわりにそういった人がすでにいるかもしれないので、今回の出前講座を通して出雲市や国の支援があることを認識できてよかったです。身近に悩んでいる人がいたら親身に寄り添ってあげられるような人になりたいと思いました。

私はヤングケアラーについては言葉を聞いたことがある程度で、実際にどのような状況のことを指すのか分かりませんでしたが、今回の出前講座で理解を深めることができました。もし私の周りで、ヤングケアラーとなり困っている人がいたら、できる限り率先してサポートしてあげたいと思いました。また、相談しやすい環境を作ることや、ヤングケアラーの実態について知ることが大切だと思いました。
高知県高知県立高知国際高等学校
- 実施日程
- 2024年12月2日(月)
- 参加生徒数
- 271名(2年生)
- 司会
- 花房 果子
- 登壇者
- 友田 智佳恵
- 事業協力
- 高知新聞社
参加生徒の感想

友田さんの話を聞き、周囲の人が寄り添って理解することが大事だと分かりました。もし自分が家族のケアを担うことになったら抱え込まずに相談したいし、身近に悩んでいる人がいたら温かく見守りたいです。今回の出前講座を通じて、自分がヤングケアラーとされる状況に直面する日がくるかもしれないと感じ、当事者意識が芽生えました。

今回の講演で、ヤングケアラーは決して自分に関係のないものではなく、身近にもケアを行っている人がいるかもしれず、ある日突然自分が家族のケアをすることになるかもしれないと分かりました。講演では当事者目線でのお話を聞くことができ、ヤングケアラーに対する正しい認識や心構えを持つことができました。貴重な経験とお話をありがとうございました。

ヤングケアラーという言葉は以前から知っていましたが、介護等を勉強してきたわけではないにも関わらず、生活の中で行わなければならないというのは非常に困難だろうと思いました。特に受験などを控えている学生には両立は難しく、自分に置き換えてみても容易にできるものではないなと思います。自分は違うから関係ないと考えるのではなく、周りに当事者がいるかもしれないから知っておこうという心構えは大切だと思いました。それは誰かのためになると再認識しました。
参加教員の感想

今回の講演を聴き、生徒達はより身近な問題としてヤングケアラーについて考えることができたようです。これまでヤングケアラーであるという自覚のない友人に対する接し方や適切な対応が分からないという生徒もいましたが、友田さんのお話で答えを得られたように思います。今後は、生活費等に関する行政支援などに理解を広げられればと思います。
北海道函館ラ・サール学園
- 実施日程
- 2024年12月4日(水)
- 参加生徒数
- 200名(全校生徒)
- 司会
- 佐々木 紫
- 登壇者
- 高橋 唯
- 事業協力
- 北海道新聞社
参加生徒の感想

ヤングケアラーという言葉だけは聞いたことがありましたが、今回のお話を聞いて、自分が知らないところで苦しんでいる人がいること、それを少しでも知ることが大事なんだと実感できました。
家族のことで困ったり悩んだりすることは、ヤングケアラーという名前がなくても誰にでも起こりうることだと思います。そういう人が周囲にいたら手助けしたり、自分がそうなったとき“助けて”と言えるようになりたいと思います。

ヤングケアラーという言葉を耳にしたことがあっても、その意味についてはよく知らなかったのですが、今回それがどのような状態をさすのか理解できました。相談できる場所があることも分かったので、もしも同じような状況になったら、自分だけで抱え込まないようにしたいと思います。
高橋さんの話を聞いて、将来もし家族のケア等に悩んでいる友達に出会うことがあったら、友人として普通に接し、話を聞いたりしてあげたいと思いました。
参加教員の感想

こどもたちを取り巻く環境は時代と共に変化し、抱える悩みは人それぞれですが、こどもの意思や将来の可能性が大人の都合によって歪められたり、狭められてはならないと考えています。
高橋さんのお話からも、問題を抱えるこどもを色眼鏡で見たりせず、何気ない会話や日常のつながりこそ大切なのだと感じました。こどもたちの気持ちを救う形はそれぞれですから、枠にとらわれず一人ひとりとしっかり向き合うことが必要だと思います。
沖縄県南城市立知念中学校
- 実施日程
- 2024年12月11日(水)
- 参加生徒数
- 125名(全校生徒)
- 司会
- 仲村 美凉
- 登壇者
- 高橋 唯
- 事業協力
- 沖縄タイムス社/琉球新報社
参加生徒の感想

ヤングケアラーの1日を演じて初めて、本当に大変な思いをしている同世代がいるんだと想像できました。起きたら毎日朝食を作って、家族に薬を飲ませてごみ出しをする人と、ベッドでスマホを触ってからゆっくり食卓に付けばいい自分は全然違います。相談するというのは簡単じゃないと思うけれど、話せる友だちの存在は大切だと思いました。

今回の出前授業を受けるまで、ヤングケアラーという言葉を知りませんでした。印象的だったのは元当事者の高橋 唯さんが紹介したスライドの写真です。お母さんが転んだ時に破れたふすまと、割れたドアが写っていました。「自分がもっと気に掛けていればこうならなかったのに」と責任を感じてしまう気がします。
振り返ってみると、私は家族が1週間入院したことがあります。その間、普段やらない洗濯や皿洗いはとても大変だったし、自分の時間が減るのも感じました。「1週間だけ」と分かっていたからできたけれど、そうでなければ将来が心配になったかもしれない。これから先もヤングケアラーのことを授業で繰り返し考えていきたいです。

ヤングケアラーがどんなに大変かを知って、自分だったらとても耐えられないなと思いました。クタクタになって帰って、もしその後、食材の買い出しに行って家族みんなの夕ご飯を作って、さらに寝る時間を削って宿題もしないといけなかったとしたら…。
2年くらい前、TikTokを見ていた時にヤングケアラーを再現した動画が流れてきたのを思い出しました。演じている人は明るい表情で家族の世話や家事をしていたけれど、それは演出だったんじゃないかなと今は思います。
参加教員の感想

今思えば私もヤングケアラーの1人です。11歳下の妹と15歳下の弟の世話をしながら食事を作っていましたし、高校生の頃には家計を支えるためにバイト代を親に渡していました。学校の先生になりたくて大学に進学しましたが、母のケアや治療費の工面のために休学を繰り返しました。それでも相談しなかった。疲れにまひしていて「疲れている」という状況が分からなかったです。
知念中学校は1クラスを複数の先生で受け持つ「チーム担任制」。先生1人では気づけなくても、いろんな先生が見ることでできることがあるはずです。例えば、遅刻してきた生徒が「寝不足」だと言った場合、「そうか」で終わらせずにもう1歩、本人が傷つかない形で聞いてみるようにしたい。本当に困っている人ほど「困っている」と言えないものですからね。
神奈川県学校法人星槎 星槎高等学校
- 実施日程
- 2024年12月18日(水)
- 参加生徒数
- 500名(全校生徒)
- 司会
- 川島 ノリコ
- 登壇者
- 氏原 拳汰
- 事業協力
- 神奈川新聞社
参加生徒の感想

ヤングケアラーという言葉は知っていましたが、今回の講座を通じてより理解を深めることができました。私の知り合いにもヤングケアラーがいますが、とても大変そうです。これまでは接し方がわかりませんでしたが、今後は、今日学んだことを活かして、いろいろ相談に乗ってあげられれば、と思います。

ヤングケアラーについてはなんとなく理解していたつもりでしたが、今回の講座でその実際を知り、自分が思っていたものとは違うと感じました。これまで身近にそのような人はいませんでしたが、今後はこの問題に関心を持ち、社会的課題として真摯に向き合い、行動し続けることが大切だと感じました。
参加教員の感想

例えば、自分の生徒や身近な存在にヤングケアラーがいたとして、その人たちにどうアプローチしていけばいいのか、しっかりと考える必要性を感じました。今回のような機会を通じ、社会のさまざまな課題に目を向け、それに自分たちがどう向き合っていくかを常に意識していくことが、とても大切なことだと思います。
兵庫県神戸学院大学附属高等学校
- 実施日程
- 2024年12月18日(水)
- 参加生徒数
- 280名(1年生)
- 司会
- 木村 三恵
- 登壇者
- 友田 智佳恵
- 事業協力
- 神戸新聞社
参加生徒の感想

友田さんはすごく強い人だなと思いました。自分がもしヤングケアラーになったらなんて全然想像できないけど、ドラマの中や遠い世界の話ではなくて、身近に起こりうる話なんだと実感できました。私の将来の夢は小学校の先生になること。今日学んだことを活かして、こどもたちや周りの人たちに寄り添えたらと思っています。

ケア負担を背負っていることを打ち明けにくいヤングケアラーの現状を知り、とても考えさせられました。家族のお世話を頑張っている子に相談してもらえるような人間になりたいです。そして相談されたら真剣に話を聞き、話が終わった後はいつもと変わらないスタンスで関わり続けたい。その方が相手も喜ぶと思うからです。

家庭科の授業でヤングケアラーという言葉を初めて知り、この講座でより詳しく学ぶことができました。友田さんの話から、家族の絆の深さや周囲に相談しづらい状況がよく伝わりました。驚いたのはクラスに1人か2人という割合の多さ。もし家族のお世話をしている人と接したときは、相談窓口のことを教えてあげたいです。
参加教員の感想

講座に参加してヤングケアラーだった生徒を思い出しました。休みが続き何気なく尋ねたら、家庭の事情を話してくれて分かりました。立ち入ったことを聞いて悪かったと言うと、生徒は泣きながら話せてよかったと言ってくれました。今回はいつ誰が当事者になってもおかしくないことを知る貴重な機会をいただきました。
山形県山形県立山形東高等学校
- 実施日程
- 2024年12月26日(木)
- 参加生徒数
- 245名(1年)
- 司会
- 井上 尚子
- 登壇者
- 高岡 里衣
- 事業協力
- 山形新聞社
参加生徒の感想

話を聞いて、ヤングケアラーには、かなり広い範囲の人が当てはまることに気付きました。そういう人が身近にいるかもしれないけれど、誰にも話すことができずに気付いていないだけなのかも知れません。また、そうした立場になった場合、困ったことがあれば相談することが大切だと思いました。

出前講座に参加して、ヤングケアラーの体験談を聞くことができたのがとてもためになりました。また、ヤングケアラーが意外と身近な存在であることを知って驚きました。身近にそういう人がいても、いつも通り普通に接しながら、相談をされたら親身になって対応してあげたいと思います。

ヤングケアラーというと若い人が介護をするようなイメージで、嫌々やっているのかと思いましたが、実際は助けたいという強い気持ちを持って取り組んでいる場合があることが分かりました。一方でさまざまな葛藤を抱えることもあると思うので、そうした際に相談できる場所が必要だと感じました。
参加教員の感想

ヤングケアラーという言葉は聞いたことがありました。頑張っている生徒であればこそ、なかなか気付けないこともあると思います。困難を抱えた生徒に気付くこと、また相談された際にきちんと対応できるような体制を整えておくことが必要だと感じました。


講座内容監修
田中悠美子

一般社団法人 ケアラーワークス

ヤングケアラーや若者ケアラーへの相談支援やピアサポート活動、ネットワークづくり、自治体におけるヤングケアラー支援施策の推進や協力、研修の講師派遣。2012年より「まりねっこ」というボランティアグループとして活動。2022年2月に一般社団法人の法人格を取得し、若年認知症の親と向き合う子ども世代をはじめ、認知症の祖父母や高次脳機能障害やうつ病の家族をケアしている若い世代のケアラー同士のピアサポートのネットワークを広げていく目標を掲げ、各種事業を展開。ケアラーと共に社会的課題に向き合い、ケアラーとその家族の幸せを追求していくことを目的として、ケアラーの交流の場、ケアラーについて知る・学ぶ機会をつくること、そして、ケアラーの悩みや思いを受け止める相談の場をつくって活動を行っている。